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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)458号 判決

上告人

丸紅木材株式会社

代理人

黒田喜蔵

黒田登喜彦

被上告人

合資会社カネモ製材所

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人黒田喜蔵、同黒田登喜彦の上告理由第一点について。

所論の事実関係に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、右認定判断の過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、または、独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用することができない。

同第二点第一について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠によつて肯認することができる。そして、原審の確定した事実関係のもとにおいては、本件木材は被上告人がその所有権を取得したものであるところ、本件売買は売主たる被上告人が神戸港において売買の目的物たる木材を引き渡すべき義務を負担する種類売買というべく、本件木材を含む木材が積出港たる宇島港の土場に集積されたからといつて、本件売買の目的物が右木材に特定されたものということはできず、また、所論のように、宇島港において訴外松崎木材商事株式会社の代理人である伊藤社員が受入明細書を被上告人に渡したこと、または、右会社のマークが本件木材の一部にすり込まれたことをもつて、本件売買の目的物が特定したものということもできない。したがつて、本件木材の所有権は訴外会社に移転することなく、被上告人にあるものとした原審の判断は、正当として首肯することができる。所論引用の最高裁判例は、事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を前提とするか、または、独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用することができない。

同第二点第二について。

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人は、本件木材がもと訴外金子宗吉の所有であつたが故に本件仮差押を執行したわけではなく、また本件木材の一部に前記訴外会社の名がすり込まれているからといつて、これが当然に同会社の所有権を表示したものということもできないから、たとえ所論の事情があるとしても、本訴において被上告人が本件木材の所有権を主張しえないとする理由は何ら存しない。この点に関する上告人の主張を排斥した原審の判断は正当であり、論旨は、独自の見解に基づき原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(大隅健一郎 岩田誠 藤林益三 下田武三 岸盛一)

上告理由(抄)

第二点 原判決は法令の解釈適用を誤り理由不備の違法がある。

第一、(一)被上告人と松崎木材との間の本件木材の売買契約は不特定物を目的とするものであつて、百歩譲つて仮に本件木材の引渡場所が神戸港であり、従つて被上告人は未だ本件木材を松崎木材に引渡していないとするも、既述(前記二の(五)の(イ)(ロ)(ハ)に詳述)の如く、本件木材の引渡場所を神戸港としたのは、単に松崎木材の都合によりその申出により神戸港にしたにすぎず、それ以外に双方に神戸港にすべき特別の理由はなかつた。(第二審において証人二之宮及び被上告本人坂本学は引渡場所を右神戸港とした理由を種々のべているが、第二審での証人二之宮の証言及び被上告人坂本学の供述はいづれも完全な迄に復習された作為的な証言及び供述で、第一審第一回の右両名の証言及び供述に対比して全く措信出来ないものである。)

右の如く本件木材の引渡場所を神戸港と決めたのは単に買主である松崎木材の転売の便宜上からであり、何等特段の事情もないから、不特定物である本件木材の売買取引については目的物である本件木材が特定した時、即ち本件木材が海上輸送の為本件土場に集積された時に、本件木材の所有権は買主である松崎木材に移転したものと解すべき(同旨最高裁昭和三五年六月二四日言渡判決集一四巻八号一五二八頁)から、本件木材が本件土場に集積された時、当然本件木材は松崎木材の所有に帰しているを以て、その時限り被上告人は本件木材につき所有権なきこと明らかであるから、被上告人の本訴請求は失当であるのにも拘らず、未だ本件土場に本件木材を集積しただけでは被上告人は本件木材の所有権を喪失せずとした原判決は失当である。〈以下―略〉

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